コラム
2022.7.16

昭和の面影をさがして神田神保町を散策する

中野祐司

「神田神保町」と聞いて、みなさんは何を連想するでしょうか?

 まずは世界最大ともいわれている古書店街、そしてカレーショップやラーメン店でしょうか。

 そこで今回は、筆者が学生時代を過ごした街「神田神保町」を、昭和の面影をさがしながら歩いてみたいと思います。

 なぜ神保町に、世界最大の古書店街が誕生したのか。この周辺には、明治大学、日本大学、専修大学、東京歯科大学、共立女子大学、中央大学(現在は移転)。それ以外にも専門学校や予備校が数多く存在しており、安価な本を求める学生たちが、古本街を誕生させたといわれています。

 地下鉄神保町駅を地上に出て、靖国通りの南側を歩きます。ほとんどの古書店は通りの南側に(北側を向いて)並んでいるのですが、なぜだかわかりますか? それは店の外に並べた本が日焼けしないように、だとか。

 映画や演劇の本が得意な矢口書店、美術書の小宮山書店、洋書の北沢書店、南海堂書店、小川図書、一誠堂書店、そして男性向けの芳賀書店。あの頃足繁く通った古書店は、ほとんどが現役で頑張っていました。

 もうひとつ、神保町で忘れてならないのが喫茶店です。それも「カフェ」ではなく「純喫茶」がいい。

 古書店めぐりの後は、細い路地を入って「喫茶さぼうる」へ。昭和30年にオープンしたこの店は、いまも昭和の風情を漂わせたままの、まさに純喫茶。

 店員さんに案内されて半地下の席へ。午後2時だというのに、店内はサラリーマンや学生たちで賑わっています。少し酸味の強いコーヒーと、壁の落書きはあの頃のままです。

 昭和50年代、ここは大学の友人たちと将来を語り合った場所でした。文庫本をめくりながら、付きあっていた恋人を待った場所。そして、彼女と別れた場所。隣の席では煙草をくゆらせながら打ち合わせをする作家と編集者がいて、後ろには夢中になって話し込んでいる学生たちがいた。

 目を閉じると、あの頃の情景がよみがえってきます。

 ずっと前を向いて夢中で走ってきたけれど、たまには後ろを振り返ってみるのもいいもんだよ…。神保町の街が、そう語りかけてくれたような、午後のひとときです。

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